2014年08月01日
魂の旅 その6 魔術師アルフレードに救われて
私自身の過去について「魂の旅」というシリーズで投稿しています。
前回の「その5」では、19才の時にロンドンにて臨死体験をし、
その衝撃によって一時的に記憶喪失となった。
そして、ある土曜日の昼下がりにポルトベロロードで、
アルフレードという男性に偶然に出会い、
私の精神状態を一瞬にして見抜いた40才ぐらいの
その見知らぬ男性の後を私はついていった。
というところまでお話しました。(5月15日投稿)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
その人の名前はアルフレード・ボネット。
パリで8年間暮らしてからロンドンに移り住んだという
南米アルゼンチン出身の芸術家である。
白人ではなく、自分はインディオだと彼はいった。
簡単な自己紹介をしてくれているうちに、
あたり一帯にフラットがたくさん立ち並んでいる
一角にある建物の扉を彼は開けた。
狭い階段を五階ほど登った小さな屋根裏部屋が、
アルフレードの住処だった。
彼は買ったばかりのティーポットにお茶を入れてくれて、
厚くスライスしたライ麦パンのトーストに
たっぷり蜂蜜をのせて私に出してくれた。
彼の部屋の窓からは、
夕日が真っ赤に空を染めているのが眺められた。
「なんて、きれいな夕日」
と私が言うと、
「あの夕日のパワー、感じられる?
そのエネルギーを吸収することにしよう。
話さないように、沈黙でね」
アルフレードはそういうと、
私の向かい側にあぐらをかいて座った。
私たちは向き合ってずっと静かに座った。
そのまま一時間ぐらい経過した頃だっただろうか、
あたりは妙に静まり返っていた。
しばらくすると、私たちがいる小さな部屋の四隅から、
まるで海辺近くにいるように波の音が微かに聞こえてきた。
次第にそれはまるでビーチにでも座っているかのように、
ザーザーと押し寄せては引いていく潮として
はっきりと聞こえてきたのだった。
「一体、これはなに?」
私は黙ってはいられなくなって彼に尋ねてみた。
「しーっ、黙ってその音にだけ集中しなさい」
と、アルフレードはひとことだけ私に忠告した。
私たちはそのまま静かに座り続けた。
すると、今度はどこからともなく一匹のハエが
その部屋の中を飛んでいる音がした。
ブーンとそのハエは音を立てながら、
部屋の窓際の観葉植物がおいてあるあたりを、
飛んでいるのが私の目にとまった。
「見つめちゃだめだよ、
今の君よりもあいつのほうが強いんだから。
波の音に集中しなさい」
またアルフレードは私にそのように忠告した。
すっかり日が落ちると、
ゆっくりと彼は立ち上がり、
灯した蝋燭を私たちが座っている間に置いた。
「さあ、お茶を飲みなさい。
でも、あの音に集中したままだよ」
『この人はマジシャンだろうか?
それともあの変わった形のティーポットが
そうさせているのだろうか?』
心の中でそんな疑問を抱きながら、
私は冷たくなったお茶をすすった。
それを見た彼は、
「君は日本人なの?
そんなふうにお茶を飲むなんて。
腕が曲がって、カップに手が届き、
口元までお茶が運ばれる。
そして口に含んだお茶が喉を通って流れていく。
君はそれを観察しながらお茶を飲まないの?」
と、アルフレードは私にいった。
私は彼の言うとおりにして、
もう一口ゆっくりとお茶を飲んだ。
カップをもとの位置に置くと、
彼はもう一言私にいった。
「今度は蝋燭の明かりで出来た自分の影を見ながら、
もう一度飲んでごらん」
彼はもう一杯お茶を注いでくれた。
私は蝋燭の炎で揺らいでいる自分の影を見つめながら、
ゆっくりといわれたとおりにしてお茶を口にふくんだ。
ちょうどカップを戻そうとしたとき、
信じられないようなことが起きた。
その瞬間私は失われていた自分の記憶を、
はっきりとよみがえらせたのである。
カップを置いたその手が小さな生まれたばかりの私の手、
5才の時の手、今の自分の手とすべてつながっている、
なんとも不思議な感覚を覚えた。
思わず私は両手を広げて、
「わあ、私はずっと生きていたんだ。これも同じ私の手!」
私はそう叫ぶと、大きなあくびをした。
「いやあ、私は今まで眠っていたのですか?
はっきりと目覚めました、先生!」
この瞬間に私は過去、未来といった
時間のイルージョンから完全に脱出できたのである。
おこがましいかもしれないが、
完全に覚醒する自分を体験していた。
その瞬間に一時的に喪失していた今生の記憶が蘇ったばかりではなく、
今から思えば前世とも思える記憶が、
パッ、パッとまるでカメラのシャッターを下ろすように
すばやく何シーンか頭の中に現れるのを経験した。
何ともたとえようのないすっきりとしたあの時の感覚は、
その後も一生忘れられるものではなかった。
私の人生の最高の経験となった。
アルフレードの小さな部屋の時計に目をやると
夜中の2時をまわっていた。
夕暮れからその時までじっと座っていた自分に気づいた。
「その世界を保ちながら、そっと立ってごらん」
と彼は言った。
私たちはゆっくりと歩きながら、
ハイドパークを抜けてケンシントンにある私のアパートまで、
二時間ほど無言で歩き続けた。
私のアパートの前までやって来ると、
「この世界は今までの世界とちがって、
外と内なる世界が完璧なバランスで保たれているんだ。
今までずっとそこにあったのだけど、
君は今日その入口を見つけた。
君が見つけたんだよ。夕日の力を借りてね」
彼はそういってから帰っていった。
アルフレードから教わったことは、
私にとってこれがほんの入り口にすぎず、
ロンドンで私は魔術師アルフレードの元で
さまざまな魔法をその時から学ぶことになった。
前回の「その5」では、19才の時にロンドンにて臨死体験をし、
その衝撃によって一時的に記憶喪失となった。
そして、ある土曜日の昼下がりにポルトベロロードで、
アルフレードという男性に偶然に出会い、
私の精神状態を一瞬にして見抜いた40才ぐらいの
その見知らぬ男性の後を私はついていった。
というところまでお話しました。(5月15日投稿)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
その人の名前はアルフレード・ボネット。
パリで8年間暮らしてからロンドンに移り住んだという
南米アルゼンチン出身の芸術家である。
白人ではなく、自分はインディオだと彼はいった。
簡単な自己紹介をしてくれているうちに、
あたり一帯にフラットがたくさん立ち並んでいる
一角にある建物の扉を彼は開けた。
狭い階段を五階ほど登った小さな屋根裏部屋が、
アルフレードの住処だった。
彼は買ったばかりのティーポットにお茶を入れてくれて、
厚くスライスしたライ麦パンのトーストに
たっぷり蜂蜜をのせて私に出してくれた。
彼の部屋の窓からは、
夕日が真っ赤に空を染めているのが眺められた。
「なんて、きれいな夕日」
と私が言うと、
「あの夕日のパワー、感じられる?
そのエネルギーを吸収することにしよう。
話さないように、沈黙でね」
アルフレードはそういうと、
私の向かい側にあぐらをかいて座った。
私たちは向き合ってずっと静かに座った。
そのまま一時間ぐらい経過した頃だっただろうか、
あたりは妙に静まり返っていた。
しばらくすると、私たちがいる小さな部屋の四隅から、
まるで海辺近くにいるように波の音が微かに聞こえてきた。
次第にそれはまるでビーチにでも座っているかのように、
ザーザーと押し寄せては引いていく潮として
はっきりと聞こえてきたのだった。
「一体、これはなに?」
私は黙ってはいられなくなって彼に尋ねてみた。
「しーっ、黙ってその音にだけ集中しなさい」
と、アルフレードはひとことだけ私に忠告した。
私たちはそのまま静かに座り続けた。
すると、今度はどこからともなく一匹のハエが
その部屋の中を飛んでいる音がした。
ブーンとそのハエは音を立てながら、
部屋の窓際の観葉植物がおいてあるあたりを、
飛んでいるのが私の目にとまった。
「見つめちゃだめだよ、
今の君よりもあいつのほうが強いんだから。
波の音に集中しなさい」
またアルフレードは私にそのように忠告した。
すっかり日が落ちると、
ゆっくりと彼は立ち上がり、
灯した蝋燭を私たちが座っている間に置いた。
「さあ、お茶を飲みなさい。
でも、あの音に集中したままだよ」
『この人はマジシャンだろうか?
それともあの変わった形のティーポットが
そうさせているのだろうか?』
心の中でそんな疑問を抱きながら、
私は冷たくなったお茶をすすった。
それを見た彼は、
「君は日本人なの?
そんなふうにお茶を飲むなんて。
腕が曲がって、カップに手が届き、
口元までお茶が運ばれる。
そして口に含んだお茶が喉を通って流れていく。
君はそれを観察しながらお茶を飲まないの?」
と、アルフレードは私にいった。
私は彼の言うとおりにして、
もう一口ゆっくりとお茶を飲んだ。
カップをもとの位置に置くと、
彼はもう一言私にいった。
「今度は蝋燭の明かりで出来た自分の影を見ながら、
もう一度飲んでごらん」
彼はもう一杯お茶を注いでくれた。
私は蝋燭の炎で揺らいでいる自分の影を見つめながら、
ゆっくりといわれたとおりにしてお茶を口にふくんだ。
ちょうどカップを戻そうとしたとき、
信じられないようなことが起きた。
その瞬間私は失われていた自分の記憶を、
はっきりとよみがえらせたのである。
カップを置いたその手が小さな生まれたばかりの私の手、
5才の時の手、今の自分の手とすべてつながっている、
なんとも不思議な感覚を覚えた。
思わず私は両手を広げて、
「わあ、私はずっと生きていたんだ。これも同じ私の手!」
私はそう叫ぶと、大きなあくびをした。
「いやあ、私は今まで眠っていたのですか?
はっきりと目覚めました、先生!」
この瞬間に私は過去、未来といった
時間のイルージョンから完全に脱出できたのである。
おこがましいかもしれないが、
完全に覚醒する自分を体験していた。
その瞬間に一時的に喪失していた今生の記憶が蘇ったばかりではなく、
今から思えば前世とも思える記憶が、
パッ、パッとまるでカメラのシャッターを下ろすように
すばやく何シーンか頭の中に現れるのを経験した。
何ともたとえようのないすっきりとしたあの時の感覚は、
その後も一生忘れられるものではなかった。
私の人生の最高の経験となった。
アルフレードの小さな部屋の時計に目をやると
夜中の2時をまわっていた。
夕暮れからその時までじっと座っていた自分に気づいた。
「その世界を保ちながら、そっと立ってごらん」
と彼は言った。
私たちはゆっくりと歩きながら、
ハイドパークを抜けてケンシントンにある私のアパートまで、
二時間ほど無言で歩き続けた。
私のアパートの前までやって来ると、
「この世界は今までの世界とちがって、
外と内なる世界が完璧なバランスで保たれているんだ。
今までずっとそこにあったのだけど、
君は今日その入口を見つけた。
君が見つけたんだよ。夕日の力を借りてね」
彼はそういってから帰っていった。
アルフレードから教わったことは、
私にとってこれがほんの入り口にすぎず、
ロンドンで私は魔術師アルフレードの元で
さまざまな魔法をその時から学ぶことになった。
Posted by 愛知 ソニア at 16:59
│ソニア物語