2007年02月02日
リサイクルの女神「ヘカテ」

そのあたりから女性や女神というと、月がシンボルとされてきましたが、はじめは、女神は皆、太陽を象徴していました。太陽の神が女神である文化をみてみると、たいてい男の神さまは月を象徴していることが多いのですが、ケルトの文化ではそうではありませんでした。ケルトでは太陽の神も、月の神も両方とも女神です。ほとんどの世界の神話に語られるように太陽と月の神さまたちを男と女に分けてしまい、異性同士にしてしまったのは単なる調和的な計らいに過ぎないのかもしれません。

前回、お伝えした女神、ヘカテの起源はギリシャ時代をさらに古代エジプトまで溯るといわれています。全知全能の神、ゼウスが登場する以前から女神へカテについては語られていたので、彼女の偉大さはゼウスにも劣らなかったのです。ですから、女神の中でもいちばん認識されていた女神として、ヘカテ以外には誰もいないかもしれません。
ヘカテは、「男性からの独立」を象徴する女神です。ですから家長制度が盛んとなってくるギリシャ社会では恐れられる女神となってしまったのです。もし女性たちがヘカテを崇め、男性達から独立しようなどとなれば家長社会は成り立ちません。そういうことで最初は天界と地上、冥界といった三つの次元すべてを司る偉大な女神、ヘカテは次第に冥界だけの女神となってしまいました。つまり黄泉の国を支配する下弦の月の女神となってしまいました。そして最初は天と地、冥界をつなぐ路の守護神で、魔法や呪術、占いの神さまとして崇められていました。夜の女王とも呼ばれていたヘカテは手には松明を持ち、吠える犬を連れて、夜の世界を駆け巡る恐ろしい姿としてやがて描かれるようになります。しかし本来、ヘカテは、豊かな富と祝福をもたらす女神であったことを忘れてはなりません。

ヘカテを東洋の女神に置き換えると、「カリ神」だと私は思います。インドの破壊と再生の女神です。カリも元々、家長制度のヒンズー社会が生まれるまでは、三大神の一人とされていました。さて、ヘカテは生の最後と結び付けて考えられていました。そして魂が再び生まれ変わるまでの冥界の旅の道案内をしてくれる女神だと言い伝えられています。
ヘカテは冥界から蘇る再生の力を与えてくれる女神で、また私たちが経験するすべてを肥料のようにリサイクルしてくれる女神でもあるのです。年をとり、老化し、死んでいく命のプロセスの中で、また新たな生命の種を拾い上げる女神・・・それがヘカテです。女性はみんな月経のサイクルを通して、このような自然のプロセスを身を通じて感じることができます。閉経すると女性はクローンとなり、血液は叡智と変容し、内なる自己に留まります。

中世ヨーロッパのキリスト社会では、残念にもヘカテはすっかり魔女とされてしまい、魔法を学ぶ女性の体にヘカテは乗り移るとまでいわれるようになりました。女性が弾圧される社会ではヘカテは嫌われ、恐れられ、悪者にされてしまいました。これはまさに人類の意識の冥界である無意識そのものだといえます。ヘカテは松明を手にし、きっと私たち、人類が無意識という冥界から抜け出るのを待ってくれているのかもしれません。そして、老いることの恐怖から解放されると、賢いクローン、ヘカテに導かれながら叡智をもって私たち本来のパワーを一層、発揮することができるでしょう。松明を灯してくれているヘカテのように、すべての人々のために光を灯してあげるような人生がまたそこからスタートするのではないでしょうか。